ライトノベル…かどうか微妙なところだが、出版もC★NOBELSだし、読み口の軽いファンタジーもの、というテーマで括るとラノベと言ってもいいかな、と思うので載せる。同じ括りで言うと十二国記も捨てがたいのだが、十二国記の重厚な世界観に「読み口の軽い」という紹介は付けられたもんじゃないので、またの機会にしよう。
デルフィニア戦記は全部で18巻あり、作中では約6年の月日が経過する、戦記ものらしい大作だ。物語の書き出しは、クーデターによって玉座を追われた青年が満を侍して国を救うため立ち上がり、異世界からやってきた男勝りの一人の少女がそれを助ける。という一昔前の少女向けライトノベルによくあったような、陳腐といってもいい設定から始まる。しかし、一味違うのが国王の座を取り返そうとする青年ウォルと助力を申し出る少女リィのキャラクター、生き方である。
魔法やゲームの世界、もしくは皮肉なことに現代社会でない限り、体力的に非力な女子が役に立てる局面と言えば頭脳戦か癒しキャラとして主役を支える役割と相場がきまっている。しかし、リィはそもそも人間なのかと疑うくらいに屈強で頭の回転も速い。その力をもって友人としてウォルを助けるのだが、言葉通り「屈強」なだけならまだいいが、「馬より早く走ることができる」少女なのだ。そんな、人の形をした化物のようなものが受け入れられるだろうか?私たちはゲームの世界とか、魔法でこんなことができるんです☆な事態に慣れているとしても、そういう価値観のない世界では「馬より早く走る」人間は存在しないし、想像したこともないはずである。人は自分の理解の及ばないことに対して恐怖の感情を抱くものだ。ウォルはそんな奇異な存在であるリィを受け止め、リィも自分が元の世界に帰るまでは、という期限つきで友人として助力を惜しまないことを誓う。主役二人の関係性を軸に、玉座奪還の第1部、暗殺者が暗躍する第2部、隣国パラストとの戦争を描く第3部、中央3大国の覇権争いを描く第4部、と物語は展開していく。話が進むにつれて困難が降りかかり、力を合わせて解決していく王道ファンタジーなのだが、大人が読んでも十分楽しめる作品だ。その理由は情景描写力とキャラクターの魅力だと思う。登場人物がみんなオトコマエなのだ。行動に一貫性があり、譲れない芯を持っている。主人公のウォルとリィの二人は最たるもので、こんな話の流れだと恋愛関係に発展しそうだが、6年という長い期間を過ごしてもずっと気の合う同盟者、友人として描かれているのが特徴でもある。青春小説ではなく骨太なストーリーである。全編を通して、リィの出自も明らかになっていくのも見どころ。最後はそんなオチ?!?という感じで、切ないけれどまぁ順当かな。
茅田砂胡作品、というかデルフィニア戦記シリーズはファンが多くて、特に登場人物のリィとシェラは新しく刊行されている別シリーズでも人気なのだが、最近では中央公論社で「茅田砂胡 プロジェクト」なるモノが立ち上げられ、特装版やガイドブック、グッズが販売されている。ファンからしたら最高の試みだ。私もデルフィニア戦記の特装版が欲しい!!
茅田砂胡 プロジェクト
https://kayataproject.com